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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

幻の雑蜜

潮海 啓

 

 あれはもう随分昔…家族とドライブ中に、ふと見かけた仕舞屋のような平屋で、お爺さんが細々と蜂蜜を売っていた。なんとなく惹かれるものを感じて覗いてみたら、大小取り混ぜていろいろな種類の瓶の中に、濃い飴色をした瓶があった。「これは雑蜜っちゅうて、蜂蜜の栄養がすべて詰まっててのう…疲れもとれるし病気にならんのじゃよ。お医者さんも買いに来るくらいじゃから」というお爺さんの言葉に、それならと一本買ってきた。軽いノリで買ったのだが、帰宅して使ってみると確かに効果抜群。疲れた時に温かい飲み物に一匙溶かして飲むと、グッと染み渡って疲労が抜けていく気がした。ちょっと高かったけれど、どうせならもう一本買っておくんだったと後悔の念がこみ上げてくる。チビチビとケチって使っていたのに、思ったより早く底をついてしまった。気まぐれで走った道だけに場所をしっかり覚えていなかったのがよくなかった。「しまった」と思っても既に後の祭り。それにあのお爺さん、結構のお歳だったみたいだから、まだご存命かどうかも解らない。まあ、あの蜂蜜を舐めていれば病気にもならずにお元気かもと思いつつ…しょうがないと言いながら未練がずるずると尾を引いた。それからというもの、蜂蜜を見かける度に「雑蜜ありますか」と聞いてもみるが大方のお店には置いていない。偶に「雑蜜」に反応して勧められるが、記憶の雑蜜には程遠い。あの濃い飴色の艶と照りは鮮明に海馬が覚えているが再会はかなわぬまま今日を迎えてしまった。さすがにもうあのお爺さんは仙人じゃあるまいしもうお会いすることはかなわぬだろうとは思っている。あの時若かった私もすっかり高齢者になりつつあるのだから。頭の中にはそれでもあの時の雑蜜の残像はシッカリ残っているし、味も朧気ながら感じる気がする。記憶は古くなるにつれてより強調されると言われるが、そうかもしれないがやはり恋しい。あの雑蜜にもう会えないのだろうか。あれ以来、私は一つ学んだ。イイかもと思ったら、アフターを考えてシッカリとリピートできるように場所や手段を確認しておくことである。ああ、しかし辛い。あの雑蜜は美味しかった。

 

(完)

 

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